発達障害と車の運転
発達障害のある人は運転が苦手?
危険運転にならないための予防・対策の方法
車の運転ではマルチタスクな考えが必要であるため、発達障害のある人の中には、車の運転に苦手意識を持つ人も多いのではないでしょうか。
ここでは、車の運転で気をつけるポイントや安全運転のための対策などについて紹介します。
発達障害のある人は運転に向いていない?
車の運転では、さまざまな状況を汲んで瞬時に判断することが求められるため、マルチタスクな考え・対応が必要になります。しかし、発達障害のある人では、不注意や多動性・衝動性、こだわりの強さ、イマジネーションの難しさなどといった特性から、車の運転に対する苦手意識やヒヤリとした経験などがある人が多いかもしれません。車の運転に対する不安から運転の機会を避けるようになったり、失敗の原因が分からず同じような失敗(事故)を繰り返したりする人もいるのではないでしょうか。
実際に、発達障害のある人の方が交通事故にあう割合および交通事故や違反を起こす割合の高さを示す報告もあります1)。これらの経験が重なり、車の運転に対する苦手意識や拒否反応につながっていくようです。
では、それぞれの特性と車の運転にはどのような関係があるのでしょうか。
ADHDの特性から車の運転を苦手だと感じやすい理由
ADHD(注意欠如・多動症)には、注意し続けることができず作業にミスを生じやすい(不注意)、落ち着きがない・待つことができない(多動性・衝動性)などの特性があります。不注意と多動性・衝動性の両方がある場合と、どちらか一方が顕著にあらわれる場合があります。
不注意により危険を見落とす可能性がある
ADHDにおける不注意には、「活動に集中できない」 「気が散りやすい」 「物をなくしやすい」 「順序だてて活動に取り組むことができない」などといった特徴があります。これらの特徴があらわれることで、運転に集中できなかったり、安全運転のための手順を実践できなかったりして以下のような状況や、交通違反・事故を起こしてしまう可能性があります。
- 同乗者との会話やカーナビの音声に気を取られる、車用信号と歩行者用信号を混同してしまう、複数のミラーを同時に確認できないなど、マルチタスクな行動ができない
- うっかり信号や標識を見落としてしまい、信号無視などの違反や交通事故を起こす
- よく道を間違えてしまう
- 隣車線の車の動きに注意を取られ、つられて同じ動きをしてしまう
- 前の車との車間距離に注意を払えず、追突事故を起こしてしまう
- 道路の幅や周囲の状況に注意を払えず、塀やガードレールに車の側面をこすってしまう
- 無意識に法定速度を超過してしまい、スピード違反(速度超過違反)をしてしまう
多動性・衝動性により危険運転をしてしまう
ADHDにおける多動性・衝動性には、「じっとしていられない」 「待つことが苦手」 「衝動的な感情・行動を抑えられない」などといった特徴があります。これらの特徴があらわれることで、落ち着いて運転できず以下のような衝動的な行動をしてしまう可能性があります。
- 周囲の安全を確認する前に急ブレーキ/急発進、車線変更をしてしまう
- 気持ちが高ぶってついスピードを出し過ぎてしまい、スピード違反(速度超過違反)をしてしまう
- 周囲の車の行動にいらだち、あおり運転や無理な追い抜きなどをしてしまい、ときにはトラブルを起こしてしまう
- 衝動的に目的地や進路を変更してしまい、交通の流れを乱してしまう
ASDの特性から車の運転を苦手だと感じやすい理由
ASD(自閉スペクトラム症)には、人とのコミュニケーションや社会性に困難さがある、特定のことに強いこだわりを持つ、イマジネーションの困難さがあるなどの特性があり、感覚の過敏さを持ち合わせていたりする場合もあります。
こだわりの強さから機敏な対応ができない
ASDの「特定のことに強いこわだりを持つ」という特性により、道路交通法や自分なりのルールを守ることに固執してしまうことで、信号が切り替わるタイミングや周囲の状況の変化に応じてとっさの判断ができず、交通違反・事故につながってしまう可能性があります。
その一方で、「ルールを徹底する」という傾向が強い人では、安全運転やマナーに忠実な優良ドライバーになる素質もあります。
コミュニケーションや社会性の困難さから周囲に合わせた運転ができない
ASDの特性には言葉や視線、表情や身振りなどによるやりとりが苦手だったり、相手の気持ちを読み取ることが難しかったりするといった特徴があります。そのため、車線変更や合流のタイミングで周囲の車の流れを読みながら対応するなど、状況に合わせた臨機応変な運転ができないことがあります。
感覚過敏・感覚鈍麻が運転へ影響を及ぼす
ASD、ADHDに共通して、感覚過敏・感覚鈍麻という五感や平衡感覚などの感覚が過剰に反応したり、反応が鈍かったりする特性があります。この特性があると、まぶしさや特定の音が通常以上に気になって運転に集中できない、標識が見えづらい、踏切の警報音が聞こえづらい、車幅を感覚的に把握することが困難など、さまざまな支障をきたす可能性があります。ときには交通事故につながるおそれもあります。
不注意から起こる「漫然運転」とは?
「漫然運転」とは、脇見運転など注意すべき対象から視線を逸らしている状況とは異なり、前方から視線を逸らしてはいないものの、対象物を注意深く見ていない状態で運転することです。この漫然運転は交通事故の原因になりやすく、特に死亡事故にもつながりやすい危険な運転のひとつです。漫然運転により人身事故を起こした場合は当然、罪に問われます。
もちろんすべての人において漫然運転は起こりえますが、不注意の特性があるとより運転に集中できず、前方を注視していない状態での運転になってしまいがちです。
安全運転のための対策方法
どんなに安全運転を心がけていても、運転中にぼんやりしてしまったり、ふと別のことに気を取られたりすることは発達障害の有無を問わず誰にでも起こりえます。万が一の事故や危険運転を防ぐためには、自身の運転技術を過信せず、安全運転に支障をきたしてしまう特性があれば、あらかじめ対策をしておくのがよいでしょう。
ここでは発達障害の特性による影響をカバーするための対策をいくつか紹介します。
- 睡眠不足や疲れがあるときは運転を避ける
遅くまで起きていた日の翌日や疲れが溜まっているときなどは集中力が低下しやすい。車の運転を予定している日までに体調を万全に整える、体調が優れないときは運転を控えるなどして危険を回避する。 - 目的地までのルート設定や天候を事前にチェックし、臨機応変な対応を回避する
とっさの判断が必要になる可能性を低くするために、目的地までのルートをあらかじめチェックしたりカーナビをセットしたりする。こだわりが強い人は、自身が使いやすい道や状況を選ぶ。また、悪天候や夜間などいつもと異なる運転環境はできるだけ避けたり、信号や標識は意識してこまめにチェックしたりするよう心がける。 - 同乗者との会話や音楽など、注意をそぐ要素をコントロールする
注意をそぐような要素は極力なくした方がよいため、同乗者にも協力してもらい会話を控えめにしたり必要最小限にしたりする。ラジオやカーナビなどの音声、音楽なども支障をきたさない範囲にとどめる。
車の運転以外にも日常生活に困りごとがある人は専門機関へ相談を
発達障害の特性への対処法を知っておくことは、車の運転のみならず日常生活全般で役立ちます。特性による困りごとがあり、日常生活に支障をきたしている場合は専門機関へ相談することもできます。
本サイトでは、発達障害に関する相談方法についても解説しています。以下のページもぜひ参考にしてみてください。
- Woodward L. J., Fergusson D. M., Horwood L.J. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry. 2000 39, 627-634.
監修:昭和大学 発達障害医療研究所
所長(准教授) 太田晴久先生
本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。