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付き合い方・向き合い方ガイドブック ワーキングメモリ
とは

発達障害との関連性や鍛え方・改善方法

“ワーキングメモリ”という言葉をご存じですか?
ついさっき聞いたことを忘れてしまう、複数の作業を並行して進めることが苦手・・・日々の暮らしの中でこうした困りごとに直面するのはワーキングメモリが低いことが原因かもしれません。
ワーキングメモリとはどんなものなのか?発達障害との関連性は?訓練すれば鍛えられるのか?そんな疑問にお答えしながら、日々の困りごとを少しでも改善するための工夫などもご紹介します。

更新日:2024年11月27日

ワーキングメモリとは

ワーキングメモリとは、外部から入ってきた情報を一時的に記憶し、処理する能力です。

  • 一時的に記憶した情報のなかから必要な情報を整理し、不要な情報を削除する役割を果たす
  • 別名「作業記憶」「作動記憶」と呼ばれ、「脳のメモ帳」と例えられることもある
  • 読み書き、計算など、日常生活でのさまざまな活動に関わる能
<会話におけるワーキングメモリの働き>
  • 相手の話を一時的に記憶する
  • 話の内容を整理する
  • 話の展開に沿って情報を取捨選択する

短期記憶との違い

短期記憶とワーキングメモリは似ていますが、実際は異なる能力です。
短期記憶とは、情報を一時的に覚えることを指します。対してワーキングメモリとは、一時的に保持した情報をもとに何かしらの処理を行う能力を指します。

<例:短期記憶とワーキングメモリの違い>

短期記憶
決められた数字を覚える
ワーキングメモリ
覚えた数字を活用して
四則演算などをする

ワーキングメモリの種類と仕組み

Baddeley A. Current Biology. 2010 Feb; 20(4): 136-140.
より一部改変

ワーキングメモリの代表的なモデルとしてBaddeley and Hitchのモデルが有名です。
Baddeley and Hitchのモデルによると、脳のなかには「音韻ループ(言語性ワーキングメモリ)」と「視空間スケッチパッド(視覚性ワーキングメモリ)」が存在しており、この2つをエピソーディックバッファが整理・調整し、さらに中央実行系がこれらを統括し、最終的に長期記憶装置につながると考えられています。
言語性ワーキングメモリが低いか、視覚性ワーキングメモリが低いかによって苦手分野は変わり、その程度には個人差があります。

ワーキングメモリと発達障害は関連があるの?

発達障害の特性によって起こりうる困りごとと、ワーキングメモリが低いことによって起こりうる困りごとには似ている点が多く見られます。

<両者に共通する困りごとの例>

  • 忘れ物・なくしものが多い
  • 気が散りやすい
  • 会話のキャッチボールが苦手
  • 聞いたことをすぐに忘れてしまう
  • 読み書き・計算が苦手

こういった共通点があることから、ワーキングメモリが低い=発達障害なのでは、と感じる方もいると考えられます。
しかし、老化やストレス、睡眠不足など、ワーキングメモリが低下する原因はその他にも考えられるため、必ずしも発達障害であるとは限りません。また、ワーキングメモリと発達障害の関連性については現在も研究が進められていますが、まだその関連性について結論は出ていません。

ワーキングメモリとIQの値は必ずしも比例しない

IQの測定検査にはさまざまな種類がありますが、測定項目の一部にワーキングメモリが入っている検査もあります。そのため、ワーキングメモリはIQに影響を与える要素のひとつと捉えることもできますが、両者は必ずしも比例するものではありません。

  • 勉強や暗記が得意でも、マルチタスクをこなすことが苦手な人もいる
  • 得意分野と苦手分野の差が大きい傾向のある発達障害の方と似ているところがある
  • 高学歴な人の中にも、ワーキングメモリの低い人や発達障害傾向のある人がいる

ワーキングメモリが低いことで起こりうる困りごと

ワーキングメモリが低いと、日常生活や仕事で以下のような困りごとが起こる可能性があります。

  • 聞いたことをすぐに忘れてしまう(指示された内容を忘れてしまう)
  • 同時並行で作業を進めるのが苦手(料理などの段取りが苦手、マルチタスクが苦手)
  • 集中力が続かない(頭がパンクしてしまう)
  • 作業を一時中断することが難しい(作業途中で切り替えることが苦手)
  • 記憶を整理することが難しい(忘れものをする、約束を忘れてしまう)
  • 相手の話の意図をうまく理解できない(コミュニケーションが苦手、会議が苦手)

ワーキングメモリが低いことで起こりうる困りごと

ワーキングメモリが低いと、日常生活や仕事で以下のような困りごとが起こる可能性があります。

  • 聞いたことをすぐに忘れてしまう(指示された内容を忘れてしまう)
  • 同時並行で作業を進めるのが苦手(料理などの段取りが苦手、マルチタスクが苦手)
  • 集中力が続かない(頭がパンクしてしまう)
  • 作業を一時中断することが難しい(作業途中で切り替えることが苦手)
  • 記憶を整理することが難しい(忘れものをする、約束を忘れてしまう)
  • 相手の話の意図をうまく理解できない(コミュニケーションが苦手、会議が苦手)

ワーキングメモリはトレーニングで向上する?

トレーニングによってワーキングメモリが向上するかどうかは、現在も研究段階にあり、はっきりと答えが出ていません。
ワーキングメモリを向上させることは難しいかもしれませんが、パフォーマンスを低下させないようにストレスを避ける暮らし方や、仕事のやり方を工夫することで、日々の困りごとを軽減させることは可能です。

ワーキングメモリのパフォーマンスを低下させない暮らし方の工夫

1. 集中しやすい環境を整える

  • 発達障害傾向のある人の中には、外部の刺激に注意を奪われやすい人もいる
  • 静かな場所を選ぶ、デスク周りを整理するなど、気が散る要因となるものをなるべく避けた作業環境を整える
  • 耳栓のほか、ノイズキャンセル機能付きのイヤホンやヘッドホンを使ってみることも効果的

2. 定期的に脳を休ませる

  • 長時間作業していると、ワーキングメモリ内が情報過多になって集中力低下やケアレスミスを招く可能性が高まる
  • 作業を効率的に進めるため定期的に休憩を取ることで頭の中をリフレッシュさせる
  • 休憩中は余計なことを考えず、適度な運動や瞑想をすることも効果的、日頃から良質な睡眠を取ることも重要

ワーキングメモリ不足でミスしがちな業務を工夫で補う仕事術

1. 聞いた情報や上司からの指示など、覚えておくべき内容はこまめにメモをとる

  • ワーキングメモリが低いと、話を聞きながらその内容を覚えておくことが苦手な傾向がある
  • 話を聞きながらメモをとるなど外部に情報の受け皿を作ることで、脳への負担を減らし、情報の抜けや物忘れを防ぐことができる
  • メモは簡潔に書き出すことが大切で、手帳やスマートフォンのメモアプリ、付箋など、自分が見返しやすいツールを選ぶ

2. 指示や伝達事項などはチャット・メールで伝えてもらう

  • ワーキングメモリが低い方は「話を聞きながらメモを取る」ことがそもそも難しい可能性がある
  • メモ時に情報を取りこぼすことが不安な場合は、重要な指示や伝達事項はなるべく履歴の残るチャットやメールで伝えてもらうように周囲に協力してもらう
  • 口頭で依頼を受けるときは、ボイスレコーダーや録音アプリを活用することで聞くことに集中できる(録音する場合は事前に相手に承諾をとるようにする)

3. タスクを細かく分けて管理する

  • ワーキングメモリが低い人はひとつのタスクに集中することを好み、複数のタスクを並行してこなすマルチタスクが苦手な傾向がある
  • タスクを細かく分類し、優先順位を決めて書き出すことで視覚的に整理され、やるべきことを管理しやすくなる
  • タスクの優先順位を決める、完了したタスクにわかりやすくチェックを入れることで達成感が得られるうえ、残りの作業量も把握しやすくなる

4. ひとつのタスクにかかる時間を長めに設定する

  • ワーキングメモリが低い人は段取りが苦手な場合が多く、ひとつのタスクにかかる時間が想定より長くなることがある
  • ひとつのタスクにかかる時間を長めに設定し、なるべくマルチタスクにならないように調整する
  • 想定外の問題や遅延がおきた時でも余裕をもって対処できる時間を設けておくのも効果的

ワーキングメモリを測定するには

ワーキングメモリを測定する方法として、ワーキングメモリ指標を含む知能検査と、子どもを対象としたワーキングメモリを調べるテストの2通りがあります。

1. ワーキングメモリ指標を含む知能検査

知能検査の中には、ワーキングメモリが検査項目に含まれるものがあります。
日本でよく使われる知能検査として、ウェクスラー式知能検査があります。対象は主に小中学生で、公認心理士や臨床心理士と呼ばれる専門家と1対1で実施される検査です。
対象年齢などにより以下の3つの種類に分けられます。

  • WIPPSI(2歳6ヶ月〜7歳3ヶ月)
  • WISC(5歳0ヶ月~16歳11ヶ月)
  • WAIS(16歳0ヶ月~90歳11ヶ月)

2. ワーキングメモリを調べられるテスト

子どもを対象としたテストになりますが、ワーキングメモリを調べるテストとして「AWMA」と「HUCRoW(フクロウ)」があります。
ワーキングメモリを「言語的短期記憶」「視空間的短期記憶」「言語性ワーキングメモリ」「視空間性ワーキングメモリ」の4つに分類し、それぞれに対する評価を行うため、ワーキングメモリの中でも何が苦手なのかを調べることができます。

AWMA(Automated Working Memory Assessment):イギリスのピアソン社が販売しているテスト
HUCRoW(Hiroshima University Computer-based Rating of Working Memory):広島大学大学院人間社会科学研究科の湯澤正通先生が開発したテスト

ワーキングメモリを調べたいと思ったら

ワーキングメモリが検査項目に含まれるウェクスラー式知能検査を実施できるのは、専門の知識と経験を持った検査者に限られています。そのため、検査を実施できる機関は限られます。
発達障害なのかどうか、どの発達障害に該当するのかを知りたい場合は、医師による検査・診断が必要です。

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。

監修太田 晴久先生
昭和大学 発達障害医療研究所
所長(准教授)

監修 太田 晴久先生 昭和大学  発達障害医療研究所  所長(准教授)

2002年 昭和大学医学部卒業後、昭和大学附属病院、昭和大学附属烏山病院 成人発達障害専門外来などで勤務。2012年 自閉症専門施設のUC Davis MIND Instituteに留学し、脳画像研究に従事。2014年から昭和大学附属烏山病院、発達障害医療研究所にて勤務し、現在は昭和大学発達障害医療研究所 所長(准教授)。

【専門医・認定医】
精神保健指定医、日本精神神経学会 指導医・専門医、成人発達障害支援学会 評議員、日本成人期発達障害臨床医学会 評議員